女川原発再稼働を目前に復活する原発プロパガンダ~電力会社の広告費を追う
皆さんは「原発安全神話」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
福島第一原発事故以前の日本では、スリーマイル島事故やチェルノブイリ事故のような重大な事故が海外で発生していたにもかかわらず、「原発の安全管理は徹底しており事故は起きない」という、実態とは異なる風説が流布していました。この「原発安全神話」を支えたのが、原発推進に不都合な報道に圧力をかけ、広告を用いて原発の必要性・安全性を刷り込む「原発プロパガンダ」です。
「原発プロパガンダ」は、電気代を原資とした莫大な広告費によって、電力会社などがテレビ・新聞・雑誌といったメディアに広告を掲載することで、スポンサーとして圧力をかけていくことで進行していきました。
電気事業はもともと、東北電力、東京電力といった大手電力会社(旧一般電気事業者)が発送配電と小売を地域ごとに独占して行っていたため、ライバル企業と争うための広告費は必要としていません。
しかし、私たちが支払った電気代をもとにして、1970年から2011年までの間に、少なくとも4~5兆円の莫大な広告費が原発プロパガンダに使われてきました(*1)。東北電力だけでも1970年から2011年の間で、2616億円の広告費をかけています。通常、地方ローカル企業が1年にかける広告費が5億円以下であることを鑑みれば(*2)、天文学的な金額です。
2011年の福島第一原発事故の発生により、一時なりを潜めていた原発プロパガンダが、近年「原発再稼働」を推進していくために復活しつつあります。以下のグラフは、過去20年の東北電力の普及開発関係費(広告費)の推移を示したものです。
※各年度の有価証券報告書をもとに作成
福島第一原発事故の後減っていた広告費が、女川原発2号機の再稼働が迫る中、2022年度の普及開発関係費(広告費)は約127億円まで増加しています。これは原発事故発生以前から見ても最大の金額です。
※)有価証券報告書をもとに作成
原発プロパガンダの復活は、実際の紙面からも確認できます。広告はデジタルベースでの検索ができず、手作業で確認するしかなかったので、2023年度の河北新報(朝刊・夕刊含む)を一枚一枚ページをめくって広告をチェックして集計しました。そうして原発推進主体(*3)による広告出稿を確認したところ、計395段の広告出稿が発見されました(15段で新聞1ページ分)。2010年の河北新報に対する原発広告の出稿が合計294段であるため(*4)、震災前以上の原発プロパガンダが展開されているといえます。
広告を出稿するタイミングも、原発への社会的関心が高まった時を狙ったものになっています。8月24日の福島第一原発の汚染水の海洋放出をひかえた7月と8月、当初の予定では女川原発2号機を再稼働するはずだった2月に、原発推進主体が広告を大量に投入しています。
原発への社会的な関心が高まる時に、原発推進主体から広告費が投入されれば、ジャーナリズムは十分に機能しません。
▲河北新報朝刊2023年11月18日 東北電力15段(全面)広告 ずさんな避難計画など、安全面での問題が市民から指摘されている女川原発を、「安全」と主張する全面広告
莫大な広告費はメディアに対する「賄賂」として機能し、スポンサーの顔色をうかがうメディアは、原発に対して強い姿勢で批判するジャーナリズムを弱めていくことになります。
メディアが十分にこの問題を報じられないならば、公正な社会を守るために、わたしたち市民自身が情報を集め、調査・告発していく必要があります。
エネルギー問題の理不尽を調査・告発してゆき、市民によるジャーナリズムを創っていくことで、ライフラインである電気・エネルギーのあり方について意見を発し、その決定に参加するエネルギーの民主主義を取り戻していく実践が重要です。
私たちFridaysForFutureSendaiは、環境問題やエネルギー問題、それに伴う人権侵害について調査・告発し、社会的なアクションを通じてより公正で持続可能な社会をつくる取り組みをしています。
私たちの活動に加わりたいという方はぜひfffsendai@gmail.comまでご連絡ください。
*1)原発広告 本間龍 亜紀書房 p22
*2)原発広告と地方紙 本間龍 亜紀書房 p12
*3)広告を数えた原発推進主体:東北電力、TEPCO(旧東京電力)、電事連(大手電力各社の出資した事業者団体)、NUMO(放射性廃棄物の処理に関わる団体)、経済産業省
*4)原発広告と地方紙 本間龍 亜紀書房 p20
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